シェイクスピア・アラカルト12

 昼間は、別件があったので、夕方になってから学校へ行った。
 体育館での舞台稽古の最中。
 「ロミオとジュリエット」は順調に仕上がっている感じがする。この芝居では、最も有名なバルコニーの場を演じる。「おお、ロミオ。ロミオ。どうしてあなたはロミオなの」とジュリエットをして云わしめる、あの場面。初恋が甘酸っぱいままで終わらずに互いの意志を確認し合い、結婚の約束まで突き進んでしまう場面だ。少女から大人へ。ジュリエットは短い間にぐんぐん成長する。
 そう思うと女優にとってはたいへんな負担になる舞台なのではなかろうか。

 「ペリクリーズ」は父と娘の話。娘ははじめて父親と会うことになる。実は親子である、ということがわからずに相見まえる男と女。男は追放された王であり、女は街の酌婦に身をやつす。この芝居の難しさは、お互いに、相手が自分の娘であり、自分の父親である、ということが、いつわかるか、ということであろうか。シェイクスピアは、明確にここだ、という台詞を用意しているのであろうが、稽古を観ているやつがれには、まだ明確に自信を持って、“この台詞だ”と云えない。父のペリクリーズはたぶん、ここかなぁ。娘のマリーナは、ここかも、という処はあるが、自信がない。
それに、ふたりは別々に相手のことを感じたのだろうか、それとも同時に感じたのだろうか。それがよくわからないのだ。


  ↑↑ 女優の吉田理恵さんに演技指導をする彩乃木崇之