「ヘンリー六世 Ⅲ」

「ヘンリー六世 Ⅲ」(子供のためのシェイクスピア) あうるすぽっと 19:00〜
 今年の“子供シェイクスピア”は、2本立て。しかも最も複雑な薔薇戦争を扱ったヘンリー六世からリチャード三世のイギリスの歴史を扱う。劇中でも強調されていたが、とにかく登場人物がたくさんいて、家系図が複雑。子供たちにどうやって説明しつつ話を進めていくのか、興味を持って観た。台詞で難しい・複雑・わからない、と連発する場面があったが、そうすれば、大抵の人は家系を理解するのを諦めるようだ。それはそれでうまい切り抜け方法とみた。赤薔薇のランカスター家と白薔薇のヨーク家の権力闘争にして、イギリスの内乱。両家はもともとは兄弟だった。それは、台詞を聞けばわかるし、プログラムにも家系図が載っている。この複雑な相関関係を理解させるのに、“わからない”などと台詞で云わせる以外にも、例えば原作にない台詞を随所に挿入したり、あえて繰り返したりして、わかりやすくする工夫が感じられた。それにしても登場人物があまりに多いから一人の役者が何人もの役を兼ねなければならない。衣装を替えて登場するが、今回ばかりは注意深く観ていないと、それがわからなくなる。それは、役者のみなさんも、同じだと思う。たぶん。「ヘンリー六世」で何役かこなし、また「リチャード三世」で何役かこなすわけだから、途中でこんがらがってしまうのではないか、とハラハラして観た。そのハラハラ感。役者を追い詰めるギリギリ感が演出の意図なのであろう。
 黒マント姿はその他大勢か出番のない人。舞台上で黒マントがそのまま台詞のある登場人物になる時には、おもむろにマントと帽子を脱ぐところ。そして場面が転換する処でクラップ。さらに死ぬ時の鈴の音。あと木製の机と椅子の簡単な舞台装置。開幕前のイエローヘルメッツ。すべてがそのままいつもの“子供シェイクスピア”。
 今回は戦の場面が多いので、殺陣が豊富だった。みなさんかっこいい。戸谷さんがご指導されているとお聞きしたことがある。
 「ヘンリー六世」は、厭戦主義者のヘンリー六世がひとつの核になる。彼は自らが戦うことを積極的に放棄して、逆に戦をやめさせようとしたが、結局それはかなわず、最後にはやっぱり殺されてしまう。同時に上演する「リチャード三世」のリチャード三世とまったく逆さま。自らが権力を奪取しそれを維持するために殺人と戦を積極的に進めるその物語との対比がとても楽しみだ。