「ローマ法王の休日」

映画「ローマ法王の休日」(英語名:We Have a Pope.)
 「We Have a Pope.」本当の原題はラテン語であるが、英語にするとこうなる。そしてこのことばは、新法王が決まったことを人々に知らせる時の決まり文句だという。
 終身職である法王が死んで、新法王を選ぶのは枢機卿たちによるコンクラーベという選挙による。そしてその選挙では、新法王にふさわしい人物が全体の3/4の票を得るまで、延々と投票が続けられるのだ。そのような選挙の時、得てしてまったく候補にも挙がっていなかった人が選ばれてしまうことがある。それは派閥の駆け引きの末、疲労と妥協により偶然の産物であったりするのだ。このドラマで法王に選ばれてしまったメルヴィルは、まさにそういう形で選ばれた人物である。だから法王になる何の準備もない。11億の信者たちに語りかけることばがない。パニックになり、就任の祈祷演説を前にしてバチカンから逃亡する。
 メルヴィルローマ市内を徘徊している間、法王庁内で缶詰にされている枢機卿たちは、文句も云わず、不平も云わず、新法王が演台に立つのを穏やかに待っている。そして枢機卿たちは、自分たちの出身地域別のバレーボール大会を行なってしまうのだ。このエピソードが実に楽しい。むろんお話だから実際にはこんなことがあろうはずがないと思う。しかし一方の新法王、メルヴィルの苦悩をよそに、地域別に分けられて試合をする嬉々とした枢機卿たちがドラマを盛り上げるのだ。
 この映画はローマ・カトリックの最高位である法王を選出する時のドラマなのである。法王の存在とは何か?とか、法王に選ばれたら人はどうなるのか?を考察する物語になっている。
……と思えるのだが、監督のナンニ・モレッティは観客にそこまで考えることを期待しているのかどうかはわからない。ただひとつ云えることは、ラストシーンを観た時におそらく人それぞれの感想を持つであろうということだ。実際に拙者はカトリックの組織、教会制度まで含めて改革を訴える新法王。という終わり方だと思ったのだが、もっと悲観的に仕事を投げ出してしまう法王。と解釈した人もいるようなのだ。