『奇跡の災害ボランティア 「石巻モデル」』&『笑う、避難所 石巻・明友館 136人の記録』&『ヒトのチカラ。 東日本大震災被災地、災害ボランティアセンターで起こったいくつものドラマ。』

第33回 東日本大震災関連(その6)・・・・・避難所と災害ボランティア

 災害の悲惨な現場。そしてそれをどう表現していくか。
 先月までの5回分で、そういうことを伝え、考える本を紹介してきた。そして今月はすこし目先を変えて、災害後の避難所の様子と災害ボランティアの状況についてのルポを紹介しよう。
 今回紹介する本の題名はどれもすこぶる長い。

 『奇跡の災害ボランティア 「石巻モデル」』(中原一歩 著)(2011.10.30第1刷)(朝日新書)(朝日新聞出版)

 『笑う、避難所 石巻・明友館 136人の記録』(頓所直人 著)(名越啓介 写真)
(2012.01.22第1刷)(集英社新書)(集英社

 『ヒトのチカラ。 東日本大震災被災地、災害ボランティアセンターで起こったいくつものドラマ。』(小田原きよし 著)(2011.09.22初版)(発行 マーブルトロン)(発売 三交社

 『奇跡の災害ボランティア 「石巻モデル」』
 石巻は「ボランティアで蘇った町」である。次に危惧されている南海・東南海・東海地震や首都直下型地震が起こった際に全国から集まるボランティアをどのようにして受け入れ、行政と連携して復興に当たるか。今回の「石巻モデル」を検証することによって、その具体策がわかってくる。・・・・・というのが、本書の謳い文句。
 「石巻災害復興支援協議会」の存在。個人ボランティアを受け入れる社協の災害ボランティアセンターと並行して、企業やNGOなど団体の受け皿を作るという災害時の「仕組み」を作った。そういう組織だけではなく、自衛隊や警察・消防まで巻き込んだ大がかりな組織化を成し遂げた。今回の震災で被害にあった自治体の中で石巻市が最も大きな自治体だった。組織も大きくならざるを得ない。
 確かにノウハウのある大きなNGO(石巻市の場合はピースボートがそれにあたる)と地元で人脈を最大限に生かせる立場の人間が出会ったとき、ボランティアを組織化して、多少の軋轢や誤解はあったにせよ、人的資源を復旧・復興に投入できるしくみをつくったのは、本書を読んでとてもよくわかる。人間はとかく知らない人を受け付けず、知った人たちだけで物事を進めようとするきらいがある。それはそもそも自己防衛を本能とする存在として仕方のないことなのであるが、そういう知った人たちだけの共同体の殻を破り、他人がその共同体の中に積極的に入り込んで、そして新しい共同体を作り上げていくその過程がよく描かれている。何かを組織化しようとしている人たちにとってはいい指南書になるかも知れない。
 ボランティアをコーディネートするリーダーの育成が、きたるべく南海東南海大地震や首都直下型地震発生後の被害の大小にかかわることになろう。その意味で、本書に書かれたことはとても意味がある。

 『笑う、避難所 石巻・明友館 136人の記録』
 本書は、そのボランティアをコーディネートするリーダーの存在をピンポイントで見せてくれる良書である。
 震災発生から、どのように彼らが生きてきたのか、どのように他者と関わり合い、そして生きていくしくみを作っていったのかが具体的にわかる。読ませる。読ませる。読んだ人を素直に感動させる本に仕上がっている。
 具体例になっていないが、一例として以下のようなことが本書に書かれている。
 “・・・・・大人が真顔になって一生懸命に働く姿を子供たちに見せる機会は減ってしまった。子供にしてみれば、大人なんてちょろいもんだと思うこともあるかもしれない。それこを、親以外の大人にこっぴどく叱られる経験もなく育てばなおさらであろう。明友館にはかっこいい大人たちが大勢いた。・・・・・”
 また、文章に添えられた写真が素晴らしい。初めは途方に暮れた人々がまだ完全にもとの生活に戻れないのにも関わらず、活き活きとして生活しているそのさま、その対比の写真になっている。

 『ヒトのチカラ。 東日本大震災被災地、災害ボランティアセンターで起こったいくつものドラマ。』
 震災後、何かをしなければいけない。と思って行動した普通の人のボランティア活動記録。本人が書いたブログと本人を紹介しているフェイスブックから本になった。そもそも震災直後のボランティア活動の大きなうねりをやり過ごしてしまった人は、その後世の中が落ち着きを取り戻しつつある中で、ボランティアをしようにもできない震災直後の興奮状態一段落してからボランティアをしようと思っても一般の人がボランティアをしよう、と思う人にとってはとても参考になる本。

 この三冊に共通することは何か。それは、執筆者の思い入れの深さ、であろう。震災以来、何度も何度も現場に通い詰め、そこの人々と親しくなり、すっかり感情が入りきっている場所の様子を一冊の本にまとめてある。どの本もそれぞれ著者の現場に対する愛が溢れかえった文章が紡がれている。読んでいて微笑ましく感じるときもあり、またその交流が羨ましくも感じるときもある。その中に参加していない我々読者は、本の中で繰り広げられている様子を追体験するが、それはあくまでも俯瞰的・視覚的な体験にすぎない。読者がそれを感じたとき、読者は執筆者および本の登場人物たちに嫉妬する。読者が中身にやきもちを焼いてしまう。それこそ、執筆者冥利に尽きる現象なのかもしれない。

奇跡の災害ボランティア「石巻モデル」 (朝日新書)
笑う、避難所 石巻・明友館 136人の記録 (集英社新書)
ヒトのチカラ。―東日本大震災被災地、災害ボランティアセンターで起こったいくつものドラマ。ボランティアって何するの? (マーブルブックス)