プロメテウスの罠

朝日新聞で連日3面に連載している、「プロメテウスの罠」。昨年の10月から続いている記事である。それが単行本化された。

 『プロメテウスの罠−明かされなかった福島原発事故の真実−』
朝日新聞特別報道部 著)(2012.2.28第1刷)(学研パブリッシング
 その続編。
 『プロメテウスの罠2−検証!福島原発事故の真実』
朝日新聞特別報道部 著)(2012.7.17第1刷)(学研パブリッシング

 新聞連載は、休みなくいまも続いている。土曜も日曜も載っている。
 まず、この「プロメテウスの罠」というタイトルがいい。
 本書にこの言葉の解説があるのでここに引用する。
ギリシャ神話によれば、人類に火を与えたのはプロメテウスだった。火を得たことで、人類は文明を発達させることができた。化石燃料の火は生産力を伸ばし、やがて人類は原子の火を獲得する。それは「夢のエネルギー」とも形容された。
 しかし、落とし穴があった。プロメテウスによって文明を得た人類が、いま原子の火に悩んでいる。」

 原発事故の原因を探り、事故の対処について観察し、放射能が飛び散った地域を取材し、そして原子力行政そのものを分析している。あらゆる角度から原発事故を考察している。考察というよりも事実の追求に徹しているのだ。事実を冷静に伝えている。それが逆に感情に訴えているのだ。
 原発事故のせいで、故郷を離れなければならない人たち。気の毒で気の毒で涙なしには読めない箇所もある。
 政府も東京電力も責任を取っていない。あれだけの事故を起こしながら、誰も責任を取っていないのが不思議だ。その答えはたぶんやっぱり出ないのだろうと思う。生命や財産を守ることよりも組織を守っているようにしか思えない。組織は生命や財産に優先する。日本人はひとりひとりをみれば、とても穏やかでいい人が多い。しかし一度、組織という鉄面皮をかぶると、鬼にもなれば蛇にもなってしまう。理屈ではなく、組織を防衛することが本能として身に付いているのだろうか。70年前の戦争を思い出す。ひたすら組織を守るために負けている戦争を続けていた日本の軍部と同じ。組織を守るためにあらゆる行動を取る。人権を平気で踏みにじる。時には脱法行為もある。これはもう国民性としかいいようがないのかも知れない。組織を守るためには何でもする。という国民性。でも、それでは困るのだ。そのために、記者たちは取材して記事を書いている。
 本書で明らかになったもうひとつのことは、政府や東電、いわゆるエリートたちの持っている、愚民感であろう。情報は提示しない。なぜなら、愚か者に情報を公開すれば、パニックになるだけだろうし、専門性が高すぎで言葉の意味もわからないのではないか、という前提なのだ。
 色も臭いも重量もない、放射能。一番怖れていたことが現実に起こってしまった。そして、そのために大切な国土の一部がいま使い物にならなくなってしまった。そのことについて彼らはどう思っているのだろうか?
 本書を読めば、いかにこの世の中が理不尽で不条理なことばかりである、ということがよくわかる。

プロメテウスの罠―明かされなかった福島原発事故の真実

プロメテウスの罠―明かされなかった福島原発事故の真実