『震災と鉄道』

 震災とそれに続く津波、そして原子力発電所の事故。これらトリプル災厄によって被災地を走る鉄道は回復不可能なほど深い傷を負っている。また一方で、直接被災しなかったが、通常運転を復活させるまでかなりの時間を要した首都圏の鉄道。
 今回はそんな鉄道を考える書物を紹介する。

 『震災と鉄道』  (原 武史 著)(朝日新聞出版)(朝日選書)(2011.10.30)

 題名からしてそのものズバリ。この震災によって日本の鉄道が抱える問題点を鋭い洞察によってあぶり出している。
 著者の原武史氏は、日本政治思想史の先生であるが、鉄道の問題についても著作が多数ある人でも知られている。“鉄分の多い”学者なのだ。
 本書は、この震災で鉄道がどうなったか。そしていま、どうなっているか。さらにもっと高い視点から日本の鉄道を俯瞰し、問題点を浮き彫りにしている。とても読みやすく、また全編“鉄道に対する愛”で貫かれた内容なので、少しでも鉄道に興味のある人にとっては著者の主張に首肯することだらけなのだ。

震災と鉄道 (朝日新書)

震災と鉄道 (朝日新書)

 本書『震災と鉄道』では、まずあの日の首都圏での鉄道の対応を考察している。あの日すべての鉄道は止まった。問題は運転再開の時期である。なぜ、JR東日本は翌日まで運転を再開させなかったか。なぜ、東京メトロは運転再開が早かったか。そして鉄道会社によって違う帰宅困難者対策。さらにその後の鉄道会社ごとに考え方が違う節電ダイヤ。毎日鉄道に乗っている者にとっては興味が尽きない話題である。
 そして次に、本書では核心ともいうべき、被災地の鉄道の状況をみて、それを考察する。頑張っている第三セクター三陸鉄道。復旧の目処すら立てず、放ったらかしのJR各線。三陸鉄道JR東日本の違いはどこにあるのか。・・・・・・それについて本書はズバッと斬り込んでいる。一言で云えば、目の届く範囲内で仕事をしている組織と東京に本社のある巨大組織の違い。そして、新幹線を最優先させたJR東日本。生活の場である在来線の復旧を急がないJR東日本。ということであろう。
 そこで、被災地の鉄道の現状と対比しつつ、日本中の新幹線について考察したのが、次の第3章である。新幹線開通によって在来線が切り捨てられる。長野新幹線開通によって碓氷峠越えの信越本線が消滅してしまった。また、東北新幹線開通で八戸〜青森間が切り捨てられ、日本一長い線の地位を山陰本線に明け渡した東北本線
 なぜ、JR各社はそれほどまでに新幹線を大事にし、スピードにこだわるのか。そして新幹線を上廻る速さのリニア鉄道の完成にがむしゃらになっているのはなぜか。速い鉄道。そこにこだわるJR各社の意気込みは並のものではない。彼らは誰に云われるでもなく、自ら積極的に新幹線を拡張し、リニアの技術をたゆまぬ努力によって革新させている。それはなぜか。・・・・・・なぜそれほどまでに、スピード(それと乗り心地)にこだわるのか。それについての著者の鋭い考察が最終の第4章である。これがおもしろい。あっ。そうなんだ。と著者の大胆ではあるが、とても説得力のある考察に脱帽なのである。それについては、ここには書かない。ぜひ手にとって読んでほしい。

 そして、高い技術を保ち、そのための設備投資にはふんだんに経費をかけるが、一方で在来線を切り捨て、津波で壊れた線路を復旧しないJRの姿勢を著者は痛烈に批判している。
 復興は鉄道の再開から始まるのである。