『歴史から探る21世紀の巨大地震−揺さぶられる日本列島』

 寒川旭さんは独立行政法人産業技術総合研究所で研究員をしており、「地震考古学」という学問分野を提唱した。この地震考古学というのは、日本列島で千数百年間にわたって書きつづられた文学記録、さらに考古学の遺跡調査で発見された地震痕跡を用いて、日本列島の地震と被害の歴史を知る学問である。
 そして彼は著作物の中で、現代は平安時代のはじめの9世紀と地震の起こり方が似ていると主張している。
 日本列島に起こった過去の地震を知ることは、今後の地震の傾向を知り、その対策を立てる上で非常に有効であることに異存はないと思う。
 今号では、この地震考古学を取り上げよう。

 『歴史から探る21世紀の巨大地震−揺さぶられる日本列島』(寒川旭 著)
(朝日選書)(朝日新聞出版)(2013.3.30)

 本書を読んであらためて確認したことは、日本列島で地震のないところはない、ということである。地球内部を覆うプレートの端に位置する日本列島はいわばプレートが起こす震動(=地震)によって成り立っている。日本列島が地上に存在する限り、そこに棲んでいる我々は地震から逃げることはできない。ここに揺れない場所はないのだ。
 現代に生きている我々は、地震が起こるメカニズム、地震の原因がおおかたわかっている。解明されているということが理解できる。大地の振動を科学的に説明できる立場にいる。しかしながら、古代から近世に生きた我々の先祖たちはなぜ地震が起こるかが、まるでわからなかった、ということを感じて、そこに感慨深いものを持った。素朴に先人たちに共感するのだ。地震は天罰である、ということを当時の為政者たちは常に感じている。失政に対して神が大地を揺らすことによって罰を与えている。
 地震はいつも起こるわけではない。その土地では数百年に一度起こる。起こった当初、人々は怯えるが、何年か経つうちに記憶が風化する。地震の被害が大きいところに再び人が住むようになる。田畑を切り開き、宅地化が進む。そして成熟した人間の生活が営まれているそのときに、地震の牙が彼らに向けられる。東日本でも西日本でもそれは同じ。日本全国、どこでも地震は数百年に一度は起こっているのだ。
 18年前の阪神淡路大震災まで、西日本では地震は起こらない、と云われていたのを読者諸兄は覚えておられるだろうか。それまでは地震=東日本であった。明治維新以降関東大震災をはじめ主な地震はほとんどが東日本で起きていた。東海地震が起こる、といって警戒をしていてもそれはせいぜい紀伊半島の東側までで京阪神以西では地震は起こらないと思われていた。しかしながら、古い文献を繙き、地質を調査すれば、四国や九州でも地震は起こっている。
 また地震には太平洋の海底に存在するプレートの移動による巨大地震と、陸地の地下に存在する活断層が引き起こす局地的な地震があることもわかっている。阪神淡路から地震の研究は飛躍的に発達して日本列島に存在する活断層もほぼ解明されている。
 活断層はプレートの移動による地震に比べ、揺れる範囲は広くはないが、断層の真上にあるものは間違いなく破壊される。
 さて、地震考古学によって過去の地震を知り、その傾向を調べてみると、日本列島は何回かの地震活動期と休止期に分かれていることがわかった。
 本書に拠れば、日本列島は過去以下のような地震活動期が存在している。その地震活動期を年代別に辿り、併せてプレート移動による代表的な巨大地震を挙げた。
 ?7世紀末から8世紀初め・・・・・律令制の確立。整備された統一国家の誕生
                  →白鳳南海地震畿内・四国)
 ?9世紀後半・・・・・平安時代摂関政治の確立期
            →貞観地震(東北太平洋岸)
 ?14世紀中頃・・・・・鎌倉時代後半。元寇
            →正平南海地震畿内・四国)
 ?16世紀後半から17世紀初め・・・豊臣家による天下統一から江戸幕府開始
            →別府湾地震(九州・四国)
 ?18世紀初め・・・・・元禄時代から8代将軍吉宗
            →元禄関東地震(関東)
 ?19世紀中頃・・・・・幕末
            →安政東海地震安政南海地震(関東から九州)
 ?20世紀前半・・・・・関東大震災から太平洋戦争終結
            →関東大震災昭和三陸地震東南海地震昭和南地震

 プレート移動による巨大地震の前後にはたくさんの活断層による地震が各地で起きている。また、東海沖のプレートと南海沖のプレート移動は連動して起こることが多いという。
 そして、このような巨大地震は歴史の節目に起こっていることに注目する。社会が安定から不安定に向かうときに巨大地震が起こっているように見える。それは偶然なのだろうか。それとも何かの因果関係があるのか。この巨大地震の周期と社会の変化の奇妙な一致が、地震が天罰によって起こると信じられてきたわけだ。
 おそらく、天災の発生から復興、そして生産力が回復し、人口増大と所得倍増の結果、貧富の差が大きくなり、社会が不安定になる、という人間社会のサイクルが巨大地震のサイクル(プレートの移動とその破壊の周期)がおおむね一致しているのであろう。プレート移動と人間の活動の周期と同じなのだ。
 阪神淡路大震災から日本列島は再び活動期に入ったとみる人は多い。人間社会もたいへん不安定である。阪神淡路大震災活断層が原因であるが、今般の東日本大震災はプレート移動による巨大地震である。あと何年か後に確実に南海東南海のプレートが大きく動き破壊されるであろう。その時のために我々がすべきことは明白である。
 特に原子力発電所について巨大地震を想像すれば、その処置は明白だ。
 そしていまは、6年後の東京オリンピックの前にプレートが大きく動くことがないことを祈るばかりである。

寒川さんの著作で関連したものが3冊あった。どれも新書なので入手しやすい。

歴史から探る21世紀の巨大地震 揺さぶられる日本列島 (朝日新書)
地震の日本史 大地は何を語るのか [増補版] (中公新書)
日本人はどんな大地震を経験してきたのか (平凡社新書)