『東京防災 −今やろう。災害から身を守るすべてを。』

 今月はちょっと毛色の変わった本の紹介をしてみよう。
 防災のマニュアル本なのだ。

『東京防災 −今やろう。災害から身を守るすべてを。』
(編集・発行/東京都総務局総合防災部防災管理課)(平成27年9月1日発行)

東京防災

東京防災

 平成27年9月1日に東京都の全戸に無償配布されている『東京防災』。既に読者諸氏諸兄は手元に届いているだろうか。
 本書は単なるマニュアル解説書ではない。必要な時に必要なところだけを見る、という取扱説明書のような利用方法だけで終わるような本ではない。
 この手の冊子としては、異例とも云える300ページを超す分量なのだ。
 また、付録として地域の地図が挟まっている。自宅の周辺図。この地図には避難所、避難場所、給水拠点、災害拠点病院などが目立つように記載されている。
 本書はかなり読みでがある。ひと通り読めば、防災の準備として何をすればよいのか、とかどのように避難すればよいのか、というようなことがふわりと頭の中に入ってくる。しかし、それはまさにふわりとした入り方なので、たぶん一週間もすればあらかたは忘却してしまうと想像する。
 本書は、云うまでもなく精読する本ではない。書かれている内容を実践することが期待されている本なのだ。
 黄色いカバーは否応もなくひと目につく。コンパアクトなA5版の大きさなので持ち運びにも便利。
 実際にどんなことが書かれているか、内容を見てみよう。
 全300ページの中で最も多くのページを割いているのは、地震である。
 表紙を開くと次の言葉が見返しに印刷されている。
 “30年以内に70%の確率で発生すると予測されている、首都直下地震。あなたは、その準備ができていますか?”
 防災意識の覚醒を求めている。
 さらにページをめくると見開きで、
 “今やろう。 もしも今、東京に大地震が起きたら。そのとき、家にいたら?地下鉄にいたら?真冬だったら?ひとりでいたら?守るべき誰かといたら?東京が一瞬にして姿を変えるその瞬間、あたたはどうする?今想像しよう。今正しい知識を得よう。今備蓄しよう。今家族や近所の人たちと話そう。一つひとつの備えが、あなたを守る盾になる。人は、災害と戦える。今やろう。災害から身を守るすべてを。”
 と大きな活字で書かれている。防災準備の覚悟を促しているのだ。

 第1章は巨大地震が起きた時のシミュレーション。発災から避難、避難生活、生活再建と順を追って説明している。このシミュレーションは備えをしていない時の姿を描いているといってよい。
 第2章では、第1章のシミュレーションの反省に立ち、備えをしよう、というコンセプトで編集されている。4つの備えが大切だ、と説く。
?物の備え・・・食料品や生活必需品の備え
?室内の備え・・・家具などの什器の転倒防止策。耐震化と防火対策
?室外の備え・・・避難所の確認や居住地域の地形を知り危険度を確認する
?コミュニケーションの備え・・・近隣の住民同士の協力が必要
 この章がもっとも大切な処であろう。備えをしっかり。
 いつやるのか。今でしょ。
 第3章では、地震以外の災害と対策について。暴風雨、土砂災害、落雷、竜巻、大雪、噴火、テロ、感染症・・・。
 第4章は、災害時に役立つ「知恵」と「工夫」の紹介。救急救命法や応急手当、消火器の使い方など。
 第5章は、災害知識について。地震のメカニズム、気象情報、生活支援制度の紹介、緊急連絡先一覧など。
 奥付の後に、14ページにわたり「TOKYO X DAY」というタイトルの漫画が掲載されている。これは実際に首都直下地震が起こった時の東京の風景を想像しているもの。大災害への危機意識を持ってもらおうということだ。本書にまったく興味がなくてもこのページだけは読むだろう。読んだ人は少しは防災への心構えが出るだろう。という趣旨である。

 本書は都民が本書のとおりに備えを実践することを意図して発行された。だから無償全戸配付なのだ。
 本書に書かれたとおりに家族会議をする家庭もあるだろうし、家族全員が揃うどこかの日に実際に家庭の避難訓練をする家もあるだろう。
 まずは自分の命を自分で守ること。自分の命を災害から守らない限り、避難や生活再建などのその次のステップは踏めない。そういう意味で家の中や職場での什器の転倒防止策や落下防止策は最重要となる備えとなることは間違いない。今やらなければならないことである。
 本書においては避難所での生活に関する部分の記載が少ない。それは仕方のないことかもしれない。しかし、避難所の生活をシミュレーションすることはとても大切なことだと思う。地震による倒壊や火災によって自宅がなくなってしまったら、当面は避難所で生活せざるを得ないのだから。避難所についてだけは本書では頼りにならない。しかし執筆子は避難所での運営面も含めた生活について、とても興味深いサイトを発見したので紹介する。

 「復興アリーナ」というサイト(http://fukkou-arena.jp/)に4年半前の東日本大震災で被災した陸前高田市の佐藤一男さんの記事が載っている。避難所生活について書かれているもので、実際に避難所の運営に関わった人のことばなので、重たいがとても参考になる。
それに拠ると、心がけたこととして、?物資は見えるところに置く(物資を全員に知らせるために) ?役員は最初に物資を取らない(役得と思われないように) ?決まったことの説明は全員が揃った時に行う(決まった時間に説明と配付をすることによりそれ以外の時間を有効に使うことができる) ?持ち物による強弱を作らない(個人的貸し借りはメンバー間に強弱を作ることになる)・・・などと非常に参考になることが書かれている。避難所を運営することが約束されている人(町会自治会の役員の方々など)はぜひご覧になるとよい。