『精霊の守り人』

 20世紀では映像にとてもできない。無理だろう、と云われていた作品が続々と映画化、テレビ化されている。「指輪物語」しかり「ナルニア」しかり。
 そして今、日本のファンタジー小説の最高傑作と云ってもいい、上橋菜穂子さんの「守り人」シリーズがついにテレビ放映された。

精霊の守り人』(上橋菜穂子 著)(1996年)(偕成社

精霊の守り人 (新潮文庫)

精霊の守り人 (新潮文庫)

 これは面白い。女の用心棒、という発想がとても新鮮だ。
 初版は1996年(平成8年)なので、もう20年も前の作品なのだが、初版の発行から10年後の2006年(平成18年)にこの作品は軽装版として、コンパクトな無線綴じの本として再度蘇った。
 その理由は簡単だ。本書を皮切りに、女用心棒バルサを主人公として「闇の守り人」「夢の守り人」「虚空の守り人」「神の守り人」「蒼路の守り人」「天と地の守り人」・・・とシリーズ化され、シリーズが一段落したときにデザインも統一された軽装版を発行したわけだ。出版社の商魂を少し感じる。その甲斐あってこの「守り人シリーズ」は2014年に国際アンデルセン賞を受賞した。誠にめでたい限りである。
 主人公のバルサ。きりりとした痩身で身軽で経験豊富な女用心棒。用心棒=ボディーガードとして雇い主の命と荷物を守り、その代償として銭を稼ぐ。かっこいいのだ。
 用心棒の話であるから、切った張ったの殺陣シーンがたくさん書かれている。見事な筆運びなのだ。どんな風に戦っているか、容易に想像できる。児童文学なので当たり前と云えばそれまでなのだが、とてもわかりやすい。
 テレビでは、綾瀬はるかが伸びやかに颯爽とバルサを演じている。相当な努力をして武芸者であるバルサを演じているであろう。役者はたいへんだ。綾瀬はるかバルサ? と最初はびっくりしたのだが、思い出してみれば、彼女は数年前の大河ドラマ戊辰戦争を戦った会津の女武者を見事に演じていたのだった。あの作品があり、そしてこの作品に出ているのだ。同じNHKだし。
 ある物語が映像化されるとき、必ずその原作である物語とは異なった展開となる部分がある。中には原作にないキャラクターまで登場させたりするときもある。
 脚本はどのように書かれるのだろう。それに演出はどうやってまとめるのだろう。・・・ということを考えながら映像を観るのは楽しい。
 物語は縦横無尽。制約は一切ない。時間からも空間からも自由である。それに予算からも自由である。しかし映像はそうはいかない。時間の制約があり、撮影にも制約がある。なによりも限られた予算内で製作しなければならない。映像の表現は不自由なことだらけであり、奴隷のように制約がある。
 映像の制作者たちは、その中でどう表現していくか、で勝負していると云ってよい。
 今回のNHKを観た限り、そのようなことをとことん感じてしまった。なぜこの人物をこう表現するのか。どうしてあの場面をカットしてこの場面をこのように変更してしまったのか。・・・そう考えながら映像をとことん楽しんだ。むろん綾瀬はるかは、ぼろを着ていてもかっこいいし綺麗なのだ。
 原作の物語は全部で10巻を超える大作であり、映像も4年に渡り放送される大作となるという。まったく楽しみだ。