『震度7の生存確率』

 日本は自然災害の多い国である。地震、台風、豪雪・・・。世界で起きているマグニチュード6以上の地震の約20%が日本で発生している、という。我々は地震多発地域で生活している、ということを自覚して、地震に向き合わなければならない運命にある。だから地震対策に関連した本は膨大に存在している。
 今回紹介する本は、従来の防災の本とは一線を画している。既存の防災関連書は、災害の備えを充分に行うことへの啓発書であり、また、被災した後の過ごし方の解説書である。
 しかし、この本は発災の瞬間&発災の直後に照準を合わせている本なのだ。

震度7の生存確率』(日本防災教育振興中央会 仲西宏之・佐藤和彦 著)(幻冬舎)(2016)

 本書は、「そのとき」の対策(=災害での自分の身の守り方、生存方法)に特化した書籍なのだ。

震度7の生存確率

震度7の生存確率

 まずは、タイトル。「震度7」と地震についての本だ、ということがわかり、次に「生存確率」というちょっと刺激的な文言が続く。震度7という揺れでは、人はなす術がない、と本文の中では随所にいうのだ。
 そんな何もできないような強く大きな揺れの時、人はそれでもどう行動したら、その場で生き延びることができるか。第1章では、様々な状況の中で震度7地震に襲われたときの、自分の対処方法を質問形式で問いかけ、その行動が何%の生存確率なのか、ということを示している。ここで本書が強調するのは、震度7の揺れでは、人はうごくことができない。ということだ。
 実際に地震の揺れの等級では震度7が最高級であり、それ以上はない。震度8はないのだ。だから、震度7は無限大の揺れ、と認識する。ただ揺れているだけではない。物が移動し、飛び、建物が崩れる揺れが震度7なのだ。
 そんな中、人はどうやって生き抜くことができるのだろう。
 この第1章では、例えば「地下鉄に乗車中、地震に遭遇。その時、あなたは?」という質問に対して、3択の対処方法が用意されている。1)両手でつり革につかまったまま、踏ん張る 2)片手をつり革から離し、離した手で頭部を防ぐ 3)その場にしゃがみ込む
 回答では、1の生存確率は70% 2は50% 3は30%・・・。特に3(しゃがみ込む)のがいけないのは、地下鉄は走行中であり、まわりに多数の乗客がいることでしゃがみ込むことは圧死の危険があるから生存確率が低くなるのだ。
 このような質問がたくさんある。都市生活においてふつうの行動時に地震に遭遇した状況での質問なのだ。
 第2章では、さまざま危険を例示して、それに対処する方法を解説する。云ってみれば第1章での回答の解説である。
 やっかいなことに地震は季節や時刻を選んで発生しない。真冬や真夏の過酷な季節もあれば、夜中にも起こる。あらゆる事態を想定なないといけないのだが、人はそんなことはできない。どんな季節であってもどんな時刻であっても、まずは自分の身を守る、ということを心がける。そのための方法、自分の身を守るための基本姿勢である「ゴブリンポーズ」を紹介している。
ゴブリンポーズ=鬼の格好である。
 それに拠ると、
1 片膝をついてしゃがむ 2 後頭部に握りしめた拳をしっかり乗せる 3 顔を両腕で挟む 4 顎を引く・・・・・これがゴブリンポーズ。
この体勢で大きな揺れをやり過ごし、揺れが収まってから脱出=避難を開始する、ということだ。
 それでも大きな揺れが始まったとき(つまり揺れる前、いつもの状態の時)、どんな場所に自分がいるか、ということを常に考えて自分の位置を決めることが大切だ、とも云っている。入り口の近く、とか柱の脇とか、逃げやすいし押しつぶされにくい場所を選んで行動しよう、と提案している。
 本書は大きな揺れの時、他と比較して安全な処で身の守り、そして揺れが収まった後に、自分の力で自由に移動することができることが最も大切である。と訴えている。
 自力で自由に移動することができることを最優先にして日々生活する、ということなのだ。
 私にとってはなかなか刺激的な本なのだ。