『職業としての小説家』

村上春樹が大いに語っている。紀伊國屋書店が発行の9割を買い取り、出版業界と流通の問題に一石を投じた『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング)。そして読者交流サイトで読者からの質問に回答をしてそれを本にしてしまった『村上さんのところ…

 『野火』

大岡昇平は昭和19年(1944年)に召集され、フィリピンに派遣され、翌年1月に米軍に捕まり捕虜となった。その実体験を文章にまとめた『俘虜記』(1949)を世に出し、そして自分の体験を交えながら創作小説の『野火』(1952)を発表する。さらに時間を…

 『東京防災 −今やろう。災害から身を守るすべてを。』

今月はちょっと毛色の変わった本の紹介をしてみよう。 防災のマニュアル本なのだ。『東京防災 −今やろう。災害から身を守るすべてを。』 (編集・発行/東京都総務局総合防災部防災管理課)(平成27年9月1日発行)東京防災作者: 東京都総務局総合防災部防…

 『ミスター・ホームズ 名探偵最後』

今年の1月にシャーロック・ホームズのバスティーシュである『シャーロック・ホームズの蒐集』をご紹介したが、今月も同じく、ホームズ物をお届けしたい。そして紹介する本書ではホームズが来日する。さらになんといっても本書のすごいところは、90歳を超…

 『牛と土 福島、3・11その後。』

4年と4ヶ月前に巨大地震とその後の大津波によって、福島第一原発があのような事故を起こし、政府は発電所の周辺を警戒区域とか計画的避難区域とか緊急避難準備区域とかに分類し、人間の立ち入りを厳しく制限した。放射線量が高いためである。特に警戒区域…

 『心残りは・・・』

この人のエッセイは何を読んでもおもしろい。小気味良くトントンと文章が進む。息継ぎが上手な文章なのだ。読み手のことをよく考えている文章。つまり人に読んでもらうことだけを考えて書かれた文章なのだ。自己満足とか自己愛に満ちた文章と対極にあると云…

 『日本語に生まれて −世界の本屋さんで考えたこと−』

不思議な本と出会った。海外で本屋さんを探して、店に入る。そして考える。何を?・・・その地域のことばについて。それからわが日本語について。さらにその地域でことばを使用している人々について。また、日本語を使っている我々自身について。 そのような…

 『アメリカン・スナイパー』

映画の「アメリカン・スナイパー」を観て、原作の『アメリカン・スナイパー』を読んだ。 映画はアカデミー賞にノミネートされた。監督はいまや巨匠といってもいいクリント・イーストウッド。男の孤独な戦いを描くことを得意とするクリント・イーストウッドが…

 『シェイクスピアの人間学』

久しぶりのシェイクスピア関連。大御所の小田島雄志先生の著作を紹介しよう。『シェイクスピアの人間学』(小田島雄志 著)(新日本出版社)(2007)シェイクスピアの人間学作者: 小田島雄志出版社/メーカー: 新日本出版社発売日: 2007/04/01メディア: 単行…

 『金田一家、日本語百年のひみつ』

代々学者を生業にしている家は、わりと多いと思う。職業が世襲制だった江戸時代はむろん、明治の御代となってからもおじいさんもおとうさんも子どもも孫もみんな学者、大学の先生、という家は結構よく見かける。そんな一族の中でもその抜群の知名度で日本国…

 『シャーロック・ホームズの蒐集』

作品が発表されてから100年以上経つのに未だにその人気は衰えず、映画での上映もテレビでの放映もたくさんある。現在もNHKが人形劇を放送している。 シャーロック・ホームズ。偉大なる探偵。架空の人物ながら、実際に存在していたかのようにかれは存在…

 『シャーロック・ホームズの蒐集』

作品が発表されてから100年以上経つのに未だにその人気は衰えず、映画での上映もテレビでの放映もたくさんある。現在もNHKが人形劇を放送している。 シャーロック・ホームズ。偉大なる探偵。架空の人物ながら、実際に存在していたかのようにかれは存在…

 『シャーロック・ホームズの蒐集』

作品が発表されてから100年以上経つのに未だにその人気は衰えず、映画での上映もテレビでの放映もたくさんある。現在もNHKが人形劇を放送している。 シャーロック・ホームズ。偉大なる探偵。架空の人物ながら、実際に存在していたかのようにかれは存在…

 『未完。 仲代達矢』

今の日本人男優の中で名実ともに巨大で圧倒的な存在感で人々の心の中にあるのは、やはり仲代達矢であろう。彼の俳優人生をみたとき、一筋縄で括ることができないことに気が付く。映画にも舞台にもそしてテレビにも出ている俳優がここにいる、という感じだ。…

 『ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石』

近代の日本。明治維新を迎え、近代国家になろうとしている日本。近代化の大きな渦の中には、ことばとしての日本語、それに文学も含まれている。文語から口語へ。そして自我の目覚め。自分は何ものであるか、ということを自分で考え、それを言葉で表現する。…

 「蜩ノ記」

「蜩の記」ではなく、「蜩ノ記」。主人公戸田秋谷の日記のタイトルが映画のタイトルになっている。もともとの原作のタイトルも同じ。昔は助詞はカタカナで表記している。 潔い生き方。きれいな生き方。誰にも恥じることのない生き方。・・・そんな生き方をし…

『東京自叙伝』

今月ご紹介する本は、本屋さんに平積みになった本書の題名を見ただけで、思わず買ってしまった本。執筆子としては、東京の地理、歴史、民俗などは好きな分野であり、本書は条件反射のように自分の籠の中に入れてしまった。そして、読後は期待通りの好書であ…

「マイボイコット宣言!」アーサー・ビナード講演会

日時:平成26年9月28日(日) 13:00〜16:00 場所:Coconeriホール 練馬区立区民・産業プラザ3F 会費:2,000円 興奮しました。 時間切れの最後にアーサーはとてもいいことを云いました。 “巨大なまやかしや嘘に対抗するための…

『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』

今月は震災関連の本を紹介したい。日本製紙石巻工場は、あの、3.11で大きく被災した。それから見事に復活するまでの従業員たちの熱い戦いを描いたノンフィクションが発行された。 この製紙工場は、まさに日本一の規模を誇る工場だった。そしてこの工場が…

『「ゴジラ」とわが映画人生』

初代「ゴジラ」は、1954年(昭和29年)に公開された。執筆子はむろん、封切り時の「ゴジラ」をリアルには観ていない。そしてこの「ゴジラ」はなんと、なんと、敗戦からたったの9年しか経っていない時の映画なのだ。この映画は、みなさんも何度も何度も…

『ロング・グッドバイ』

レイモンド・チャンドラーが造形した探偵、フィリップ・マーロウ。タフで力強く無駄口を叩かず、自分の主張を曲げない。相手に妥協しない。だから組織の中で生きていくことは難しい。それで独立した私立探偵をひとりでしている。仕事を選ぶからいつも金に困…

『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』

さて、今月は仲代達矢に登場してもらう。仲代達矢のイメージはどんな感じなのだろう?執筆子の想いは「演じる」ということ、その一点に集中している俳優。というイメージがある。映画もテレビも舞台でも演じ切る。ほかのことはやらない。俳優が監督をしたり…

『蜥蜴の尻っ尾 とっておき映画の話』

黒澤明監督のもとでスクリプターを務めていた野上照代さん。彼女の現在の職業は何だろう? 著述家か、プロデューサーか、単なるご隠居か。現在はよくわからなくても、過去においては、さまざまな職業を経験し、最終的には映画人のひとりとして様々な人と関わ…

 『高峰秀子との仕事 1・2』

雑誌記者だった斎藤明美さんが松山善三、高峰秀子夫妻の養子であり、夫妻の著作物の相続人であることは高峰秀子についてすこしでも興味を持っている人々にはよく知られている事実である。その斎藤明美さんが書いた高峰秀子へのレクイエムともいえるような書…

『サムライ 評伝 三船敏郎』

三船敏郎は1920年(大正9年)生まれだから、生きていれば94歳。“世界のミフネ”は1997年(平成9年)に亡くなった。享年77歳。生前の名声と比較すると少々寂しい死であった。 しかし三船が残した業績は素晴らしい。スクリーンの中で三船は大きい…

『歴史から探る21世紀の巨大地震−揺さぶられる日本列島』

寒川旭さんは独立行政法人産業技術総合研究所で研究員をしており、「地震考古学」という学問分野を提唱した。この地震考古学というのは、日本列島で千数百年間にわたって書きつづられた文学記録、さらに考古学の遺跡調査で発見された地震痕跡を用いて、日本…

『地震雑感/津波と人間』寺田寅彦随筆選集

関東大震災に関する書物については、いちおう今号を最後にする。掉尾を飾るのはやはりこの先生しかいない。関東大震災当時、現役の東京帝大理学部教授であった寺田寅彦先生の随筆を紹介したい。寺田先生の随筆にも“あの日”のことを書いたものがある。それと…

 「三婆」水谷八重子、波野久里子、沢田雅美

日時:平成25年12月21日(土) 11:30〜 場所:新橋演舞場 大きな劇場での観劇は、それなりの作法というか、芝居を観るための準備が必要です。 まず、開演時間ぎりぎりの入場はいけません。芝居は劇場へ至るアプローチからすでに始まっています。…

『東京震災記』

先々月から関東大震災を記録したもの、関東大震災後の文学についてみてい る。今月は、自然主義文学の大御所、文学史必須の田山花袋先生にご登壇いた だくことにしよう。 彼は自然主義文学が文学の中心であった、明治の末から大正のはじめにかけ ての時期に…

『文豪たちの関東大震災体験記』 『銀座復興 他三編』

関東大震災後、震災をテーマにした文学はあるのだろうか? 素朴な疑問が 生じた。 大正12年当時の日本文壇を俯瞰してみてほしい。さすがに漱石鴎外は舞台か らいなくなっているが、田山花袋や芥川龍之介、泉鏡花、与謝野晶子、室生犀 星、佐藤春夫、山本有三…