書評

『震災と鉄道』

震災とそれに続く津波、そして原子力発電所の事故。これらトリプル災厄によって被災地を走る鉄道は回復不可能なほど深い傷を負っている。また一方で、直接被災しなかったが、通常運転を復活させるまでかなりの時間を要した首都圏の鉄道。 今回はそんな鉄道を…

『双頭の船』

震災から丸二年が経過し、文学の場では悲しみや無常観、諦観だけを表現したものだけでなく、ようやくと云うべきかユーモアに溢れた希望のものがたりが登場するようになった。 今月は、この2月に初版が発行されたそんな文学を紹介する。 『双頭の船』 (池澤…

前へ! 東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録

この大震災において、救助、救命、復旧にあたった人たち。その多くは政府の機関に属した公務員たちであった。中でも震災当初から、自衛隊、警察、消防の活躍はマスコミを通して多くの日本人の記憶に残っている。そしてこれらの職業をめざす若者たちが急増し…

海が呑む −3.11東日本大震災までの日本の津波の記録

日本における過去の津波の記録を丹念に掘り起こし、それを報告している本に出会った。もともとは以前に発表しているものを今回、一冊にまとめて出版したわけだ。したがって、3.11以前の津波の記録に本の内容の大部分を割いている。“記録”と云っても、役…

『学校を災害が襲うとき −教師たちの3.11』

今回の震災における、学校の被害、子どもたちのこと、教師たちの努力はどんな様子だったのだろうか。宮城教育大学の先生が被害に遭った教師たちの聞き取り調査をした。そしてその調査結果をまとめ、本を出版した。 『学校を災害が襲うとき −教師たちの3.1…

3.11から考える「この国のかたち」 −東北学を再建する−

今回の震災は、日本が最大の人口規模となったときに起こった。これから日本は人口減少の時代に入り、そして50年後は8,000万人まで、人口は減ると云われている。人口の減少はつまり、人の住むところが小さくなってくる、ということであろう。東北地方の…

プロメテウスの罠

朝日新聞で連日3面に連載している、「プロメテウスの罠」。昨年の10月から続いている記事である。それが単行本化された。 『プロメテウスの罠−明かされなかった福島原発事故の真実−』 (朝日新聞特別報道部 著)(2012.2.28第1刷)(学研パブリッシング)…

『震災後のことば−8・15からのまなざし』

昨年末から今年初めにかけて新聞社の文芸担当編集員が70年前の戦争も経験しているようなヴェテラン文学者たちに今度の震災についてのインタビューを試みた。その記録を紹介しよう。結論から云うと、老人たちは絶望しているようだ。ほとんど楽観はしていない…

『奇跡の災害ボランティア 「石巻モデル」』&『笑う、避難所 石巻・明友館 136人の記録』&『ヒトのチカラ。 東日本大震災被災地、災害ボランティアセンターで起こったいくつものドラマ。』

第33回 東日本大震災関連(その6)・・・・・避難所と災害ボランティア 災害の悲惨な現場。そしてそれをどう表現していくか。 先月までの5回分で、そういうことを伝え、考える本を紹介してきた。そして今月はすこし目先を変えて、災害後の避難所の様子と災…

『瓦礫の中から言葉を』(辺見庸)

第32回 東日本大震災関連(その5)・・・・・辺見庸の憂鬱 作家の辺見庸氏は、宮城県石巻市出身である。その辺見氏がNHKの番組(こころの時代 瓦礫の中から言葉を−作家・辺見庸)に参加した後、彼なりの3.11論を書き下ろした作品。 『瓦礫の中から言…

『それでも三月は、また』

第31回 東日本大震災関連(その4)・・・・・作家たちのアンソロジー 震災後、ことばの表現者たちはこの世界をどうみたのか? 今回ご紹介する本は、3.11後に彼ら作家たちが何を感じているのか、をそれぞれの作品に表現したものを集めた本である。いわゆ…

『生存者』(根岸康雄)&『気仙沼に消えた姉を追って』(生島純)&『暗い夜、星を数えて』(彩瀬まる)

第30回 東日本大震災関連(その3)・・・・・生還者と死者の境い目 今号の小欄は、この災害で人々がどう行動したか。なかんずく、どう行動した人が助かり、また無念にも帰らぬ人となってしまった人たちは何をしなかったか、を考えてみたい。翻ってそれを考…

『3.11を心に刻んで』(岩波書店編集部)&『言葉に何ができるか 3.11を越えて――』(佐野眞一・和合亮一)

第29回 東日本大震災関連(その2)・・・・・言葉になにができるか 今号の小欄は、言葉を紡ぐことを生業にしている人々がこの震災をどうみたのか。どう感じたのか。そしてどう行動したのか。それをみたい。 あの時しばらくは皆が言葉を失った。それからすこ…

『遺体』(石井公太)&『震災死』(吉田典史)

第28回 東日本大震災関連(その1)・・・・・・震災で亡くなった人々 小欄は、映画や演劇、それに話芸の世界を表現している本を紹介するコーナーなのだが、しばらくは先の震災に関連する書籍を取り上げていきたい。担当している筆者のわがままをどうか許していた…

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(ジョナサン・サフラン・フォア)

第27回 9.11とオスカー少年 いよいよ、3月11日がやってきた。気分的に居ても立ってもいられない。1年経ったが、政府のやることはあまりうまくいっていない感じがする。被災地ではなにもかもに対して人手不足を感じるのだ。人がもっと参加しなければ…

『現代口語演劇のために』(平田オリザ)

第26回 平田オリザが求めるもの(その3) 最近どうもはっきりしない。ぼんやりとした落ち着きのない気分。全体として楽しくないのだ。読者諸氏諸兄は如何だろうか。天井がとても低く窓もなく狭くて暗い部屋に閉じ込められている感じ。この焦燥感。閉塞感。…

『演技と演出』(平田オリザ)

第25回 平田オリザが求めるもの(その2) 前回ご紹介した『演劇入門』(講談社)(講談社現代新書)(1998)の続編。姉妹書と云ってよい本を今月はご紹介しよう。 『演技と演出』(平田オリザ 著)(講談社)(講談社現代新書)(2004) 題名のとおり、演技…

『演劇入門』(平田オリザ)

第24回 平田オリザが求めるもの 鳩山・菅両総理の内閣参与だった脚本家で演出家の平田オリザさん。彼は戯曲を書くときのコツを一般の人に伝授した。 『演劇入門』(平田オリザ 著)(講談社)(講談社現代新書)(1998) そもそも脚本家が自分のノウハウをべ…

『シェイクスピアのたくらみ』(喜志哲雄)

第23回 シェイクスピアのたくらみ 興味深いシェイクスピア論を展開している本に出会った。とてもおもしろいのだ。 『シェイクスピアのたくらみ』(喜志哲雄 著)(岩波書店)(岩波新書)(2008) シェイクスピアは、観客の反応を計算して脚本を書いた、とい…

『女の一生 −杉村春子の生涯−』(新藤兼人)

第22回 大女優 杉村春子 杉村春子は大女優である。杉村を少しでも知っていれば、大人も子供も男女を問わず、即座に大女優であると誰もが認める。その芝居を観れば、好きとか嫌いとか、そういう感情を抜きにして、芝居のうまさに惚れ惚れと見入ってしまう。素…

『トゥルー・グリット』(チャールズ・ポーティス) 

第21回 一味違う西部劇−True Grit− 読者諸氏諸兄は、西部劇はお好きだろうか。おそらく男の子なら誰しも西部劇を観て、そこに登場する人物に感情を移入してしまったことであろう、と思う。出てくるカウボーイたちは誰もがテンガロンハットをかぶり、腰に拳銃…

『オセロー』(シェイクスピア)

第20回 嫉妬という怪物&キリスト教の勝利−オセローを読む− シェイクスピアの四大悲劇の一角を占める『オセロー』という作品は、その完成度においておそらくシェイクスピアの作品の中でも一、二を争うものであろう。読めば読むほど、芝居を観れば観るほど味…

『二流小説家』(デイヴィット・ゴードン)

第19回 The Serialist 小欄は映画・演劇関係の著作物を扱っているが、たまには道草をして寄り道をして箸休めをしてみようと思う。愚生もたまにはミステリ小説なぞも読むのだ。 『二流小説家』(デイヴィット・ゴードン 著)(青木千鶴 訳)(早…

『團十郎の歌舞伎案内』(市川團十郎)

第18回 團十郎の歌舞伎案内 現役の團十郎、十二代目市川團十郎が、2007年(平成19年)9月、青山学院大学において客員教授として「歌舞伎の伝統と美学」というテーマで集中講義をした。その時の講義を一冊の本にまとめたものがある。今月はそれを読んでみたい…

『江戸っ子の倅』(池部 良)

第17回 ヴェテラン俳優の軽妙洒脱 先月号では、昨年暮に逝った高峰秀子さんの著作(『わたしの渡世日記』)を紹介したが、今月号も同じく昨年亡くなられた役者、往年の大俳優池部良さんの著作を読んでみたい。 池部良さんは昨年の10月8日に92歳で他界された…

『わたしの渡世日記』(高峰秀子)

第16回 大女優の半生記 毎日みなさんはどうお過ごしなのだろうか。 阪神淡路大震災もオーム真理教のサリン事件も9.11同時多発テロの時も大きなショックを受けたものの自分の中では時間は淡々と進み、取り立てて日常の行動に変化はなかった。しかし今回はもう…

『演出家の仕事』(栗山民也)

歌舞伎には、演出家という立場のスタッフは存在しない。存在したとしてもそれは新作歌舞伎の場合であって、古典とされるような舞台にはいない。型とせりふと衣装とがきっちり決まっているものに対して演出家は必要ないわけだ。「勧進帳」はあの芝居だからみ…

『リア王』(シェイクスピア)

第14回 黒澤明生誕100年記念(そろそろ・・・?編)−映画の原作にあたる(その7)− 寒い日が続きます。外は寒いので家の中で読書に明け暮れる日々です。冬は読書の季節ですね。 さて、今月も小欄は先月に引き続き「沙翁」=「シェイクスピア」でいきます。 ・・・…

『マクベス』(シェイクスピア)

第13回 黒澤明生誕100年記念(年が明けてもまだまだ続くよ編) −映画の原作にあたる(その6)− あけましておめでとうございます。 さて、小欄も2年目に突入しました。そして、“黒澤明生誕100年記念”は9回目を迎えます。年が明けてもまだ続けることをどう…

『羅生門』『藪の中』(芥川龍之介)

第12回 黒澤明生誕100年記念(どんどん行こう編)−映画の原作にあたる(その5)− 芥川龍之介の作品は、なかなか映画になっていない。鷗外・漱石の作品は映画化されているが、この芥川の作品は映画化=脚本化されていない。ということに当時まだまだ駆け出し…